30人が1日でAI利用ルールに合意できるか?
30人のエンジニアリング系スタートアップは、AIをどのように使い、どのような場面では使わないと決めるべきでしょうか。2026年9月、Lyfe Catalystの熟練ファシリテーター、Jean Lou Fourquetは、チーム全員と丸1日かけてこの問いに取り組みました。
企業のワークショップは、良い意図を共有しても、具体的な行動につながらずに終わることが少なくありません。この日は、AI利用憲章の草案が完成しました。チームは意見の違いを超えて原則に合意し、その優先順位も自分たちで決めました。
違いを生んだのは、Agoraの2つのモードを順番に使ったことです。会話モードでは、1日を通して合意と対立を可視化しました。その後、優先順位付けモードで、合意を得た意見を共通の優先事項として順位付けしました。
会話モードは何に合意しているかを明らかにし、優先順位付けモードは何を先に行うかを決めます。
課題:学びはあっても、意思決定に至らないワークショップ
AI研修には、おなじみの流れがあります。専門家の講演、活発な議論、数枚の付箋。参加者は何かを学びますが、何も決まりません。成果は会議室にとどまり、発言力の強い人や役職の高い人の意見に左右されがちです。
このスタートアップが抱える課題は具体的でした。メンバーによってAIツールの使い方も利用の程度も異なり、共通のルールがありませんでした。リスクに関する問いもありました。会社の機械の図面やパラメーターを外部のAIアシスタントに入力してよいのか。また、企業の姿勢に関わる問いもありました。機械のエネルギー消費を30%削減できると掲げる会社として、多くのエネルギーを消費するAIをどこまで使うのが一貫した判断なのか。
この日の目標は明確でした。理解を深めるだけでなく、チーム自身が作成し、主体的に運用できるAI利用憲章の初稿を持ち帰ることです。
当日の前に:実際の業務経験から最初の意見を用意する
最初の意見は、一般的な一覧ではなく、チーム自身の経験から作成しました。参加者は事前に、次の3つの質問に回答しました。
- 仕事で生成AIツール(ChatGPT、Claude、Copilot)を最後に使ったとき、具体的に何を依頼しましたか。それによって何を節約でき、何を費やしましたか。
- AIをまったく使わない同僚を説得するなら、自分の仕事の中で本当に価値のある使い方を1つ挙げるとしたら何ですか。その理由は何ですか。
- AIをいつも使う同僚に注意を促すなら、AIを決して使うべきではない場面を1つ挙げるとしたら何ですか。その理由は何ですか。
回答を整理し、チーム自身の言葉で書かれた、具体的で議論できる初期意見にまとめました。ルール、望ましい実践、未解決の対立点が含まれていました。例えば、次のような意見です。
- 「AIは、エンジニアがすでに書いたメモをもとに報告書を言い換えたり明確にしたりするために使い、内容そのものを生成するためには使わない。」
- 「自社の機械の図面、構成図、技術パラメーターに関する作業では、外部のAIアシスタントを禁止する。」
- 「新しいAIツールを導入する前に、その環境負荷を、実際に得られる時間短縮や品質向上と比較して評価する。」
- 「設計中の寸法設定や計算方法の候補を素早く検討するためにAIを活用しつつ、最終判断はエンジニアが行う。」
会話の説明には、新しい投稿の基準を示しました。抽象的な原則より具体的な提案を重視することです。「責任を持つべきだ」ではなく、「AIが出した数値を顧客への成果物に入れる前に、必ず確認する」と書くよう促しました。
当日:朝から午後まで開かれた1つの会話
Agoraの会話「私たちは会社でAIをどのように使いたいか?」を9:00に会場で開始し、全員がスマートフォンから参加しました。会場にQRコードを表示し、会話は1日中開いたままにしました。
参加者には次のことを依頼しました。
- すべての意見に「賛成」「反対」「わからない」で投票する
- 新しいアイデアを投稿する
- 定期的に戻って、新しい意見にも投票する
プログラムでは短い講演と議論を交互に行いました。扱ったのは、AIの仕組み、環境や社会への影響、民主的なデジタル技術の原則、研究や工学での慎重な活用方法です。各セッションの終わりには、Agoraに戻って投票し、意見を追加するよう促しました。講演が会話を豊かにし、その会話が次の議論につながりました。
15:45、チームは一歩引いて、意見マップを一緒に読みました。対立する意見を曖昧にせず、明示して記録しました。共通点に焦点を絞る前に、「自分がどう考えるか」ではなく、チーム全体がどこに立っているかを理解することが目的でした。
主な結果:共通点と、残された意見の違い
1日の終わりまでに、25人が42件の意見に730票を投じました。事前に用意した意見は6件だけで、残りの36件は参加者が当日に書いたものでした。
合意できたこと
Agoraは、両方の意見グループが支持する10件の意見を特定しました。共通の土台は明確でした。
- 確認する:科学・技術動向の調査にAIを使う場合は、必ず元の情報源に戻って確認する。賛成率84%で、この日最も支持された意見でした。
- 明示する:AIを使って作成した技術文書には、その旨を記載する(賛成68%、反対なし)。
- 守る:自社の機械の図面、構成図、パラメーターに関わる作業では、外部のAIアシスタントを使わない(賛成68%、反対なし)。会社のデータをAIに送る場合は、会社の承認を得る(賛成60%)。
- 研修する:新しく入社した人は、初日から社内で認められたAIの使い方を学ぶ(賛成64%)。
特に注目すべきなのは、合意を得た10件のうち7件が、主催者ではなく参加者によって当日書かれたことです。
意見が分かれたこと
- 「AIに質問する前に、その分野に詳しい同僚がすでに答えを知っていないか確認すべきだ。」
- 「会社独自の社内AIを開発すべきだろうか。」
ただし、単純にAIの賛成派と反対派に分かれたわけではありません。会社でAIを一切使うべきではないと考えたのは8%だけでした。意見の違いは無理に合意に持ち込まず、憲章に残る検討課題として記録しました。
2つの意見グループ
- 実用重視派(15人、60%):責任ある使い方であればAIは有用だと考えています。全員が、情報源を確認したうえで技術動向の調査にAIを使うことと、面倒な作業の自動化を支持しました。個人データの保護と、会社によるAI利用料金の負担を求めています。
- 人間重視派(6人、24%):人の専門性と人同士の関わりを優先します。83%が、生成AIの社会的・環境的な負担は作業の高速化による利点を大きく上回ると考えており、実用重視派では20%でした。3分の2は、人とのやり取りを含む工程をAIで完全に自動化すべきではないと考えています。
どのグループにも分類されなかった参加者(4人)は、投票した意見が7件未満でした。
合意から優先順位へ:憲章の項目を順位付けする
合意によって、チームが何に賛成しているかはわかります。しかし、どこから始めるかはわかりません。だからこそ、この日はマップを作るだけでは終わりませんでした。
グループをまたいで合意を得た10件の意見を、2つ目のAgoraの会話に移し、今度は優先順位付けモードを使いました。参加者は意見を比較し、順位を付けました。目指したのは網羅的な一覧ではなく、合意と優先度の両面で重要な短いリストです。
上位に入った共通の優先事項には、次が含まれます。
- データ漏えいや製造・業務プロセスの盗用などを防ぐため、AI利用時に外部へ出してしまう可能性のある機密情報に注意する。
- 科学・技術動向の調査(論文や特許の要約)を速めるためのAI利用を認める。ただし、その情報に依拠する前に必ず元の情報源を確認する。
- 研究にAIを使うときは、利用者が少なくとも一部の情報源を確認する。
16:30、順位付けから生まれた憲章の草案を読み上げました。チームはこれを継続的に見直す文書として採用し、抽選で選ばれた委員会が3か月ごとに再検討することにしました。
なぜ重要なのか:アイデア出しから、集団としての理解へ
ブレインストーミングはアイデアを集めます。集団としての理解を深める作業は、グループが実際にどう考えているかを明らかにします。Agoraのマップは、取り組みの土台となる共通点と、話し合う価値のある対立点を示しました。参加者は意見が分かれる部分を深く検討し、合意している部分で協力できました。
2つのモードは、それぞれ異なる問いに答えます。
- 会話モード:意見の違いを超えて、何に合意できるか。
- 優先順位付けモード:合意できたことの中で、何が最も重要か。
2つを組み合わせることで、1日の講演や議論が、チーム自身の成果になります。ルールは経営陣やファシリテーターから与えられたものではありません。実際に運用する人たちが作ったものです。
これから
この憲章は、変化していくことを前提としています。3か月ごとに抽選で選ばれる委員会が、ツール、使い方、チームの変化に合わせて見直します。
この形式はAI以外にも応用できます。共同で判断する必要のある組織なら、同じ手順を使えます。
ワークショップは、良い意図を共有するだけで終わる必要はありません。適切なプロセスがあれば、チーム全員が支持する共通の優先事項にたどり着けます。
同じようなワークショップを開いてみませんか?
Agoraの公式パートナーであるLyfe Catalystは、チーム、コミュニティ、学生、パートナー向けに、AIやその他の共同の意思決定をテーマにしたワークショップを設計・進行できます。Lyfe Catalystに問い合わせる。
すでに経験豊富なファシリテーターの方は、Agoraを今すぐ使い始めるか、私たちに直接ご相談ください。